STARMANN

いつか光を超えて、わたしを空へ連れ出して

矢崎広の芝居に見る「生きる」とは

私には推している役者が複数人居る。
それぞれに、歌が好き、ダンスが好き、志が好きなど、『みんな違ってみんないい』状態で推しているけれど、その中でも間違いなく「お芝居が一番好き」と言えるのが、矢崎広さんだ。

なぜ広くんのお芝居がそんなに好きなのか。それは、彼の演じる役が、たしかな生命力と感情をもってそこに居て生きていると感じられるから

広くんを推しはじめて、もうすぐ4年。
私の思う矢崎広さんのお芝居の魅力をようやく言葉にできそうなので、残しておこうと思う。
感じ方には個人差があるし、これからも見ていくうちに本人の演じ方も私の感じ方も変わるかもしれないけれど、そのときはまた論文書く。


目次

  • 本人の芝居観に目からうろこが出た話
  • 朗読劇で感情表現の極みを見た話
  • 「受ける」芝居
  • 「役を生きる」
  • 役とのシンクロ
  • とにもかくにも『モマ』が最高なので観てほしい話






本人の芝居観に目からうろこが出た話

はじめに私が広くんのお芝居にかける意識に感銘を受けたのは、4年前、私が彼を推す決め手になったミュージカル『ドッグファイト』開幕前のインタビュー。
spice.eplus.jp


広くんは役に関して、「ラストシーンのために、僕らは屋良くんに楽しい思い出を作ってあげないといけない」と語った。広くんと屋良くん、そして中河内くんの3人は、海兵隊の仲間で親友という役どころ。言ってしまうと、広くんとまさくんは2幕終盤に戦死し、屋良くん演じるバードレイスだけが生き残り二人とのもう戻らない日々を悔やむというのが、今作のラスト。彼が言っているのは、バードレイスの悲しみの表現に屋良くん自身の感情を乗せるため、板の上で本人の感情を揺さぶる、ということ。


それまで私は、お芝居の感情表現について深く考えたことは無く、ト書きに「泣く」と書いてあるから段取りとして泣いている、くらいの認識だった。しかし彼のこの言葉で、感情表現は段取りなんかでやるものじゃなく、板の上で自分の心が役として感じるということなのか、と悟った。

同じことを広くんはるフェアのインタビューでも話している。「ラストシーンは、その日の公演でそのシーンに至るまでのみんなのお芝居を受けて、『今日はこんな感じでした』というまとめみたいな気持ちでやってた」そうで、その日その場で義経くんとして感じた通りに表現するため、稽古もほとんどしなかったとのこと。そりゃ毎公演違いますよね~毎回感じてることが違うんだから。まさに生もの。

朗読劇で感情表現の極みを観た話

そして私がそんな広くんの表現に完全に心打たれたのが、朗読劇『私の頭の中の消しゴム』。

はい。「でも、朗読でしょ?」と思ったそこのあなた。

甘~~~~~~~~~~~~~~~い!!!!!



消しゴムという作品に関して書き始めると脱線するのでグッとこらえるが、これはもはや「朗読劇」の域を超えたジャンル。あまりにも有名なお話なので詳細は省くが、広くんの演じた浩介は、若年性アルツハイマー病にかかった最愛の妻が自分のことをどんどん忘れていくという役どころ。

椅子に腰かけて台本を広げてはいるものの、そこで泣き、喚き、喜び、悲しみ、妻を愛しつづける浩介は、とても「台本を読んでいる」なんてものではなかった。浩介という役を通して広くん自身が感じた喜び、悲しみ、愛情が、また浩介を通して表出している。このとき私は初めて、お芝居を見て「生きてる」と感じた。

広くんは本作の印象的なセリフに「朝起きるときと、夜帰ってきた時が一番辛い。もしかしたら君がいるんじゃないかって、つい探してしまう」を挙げた。辛すぎて涙が出てきてしまうそう。感情の起伏に段取りなど無い。

朗読劇で言えば、『季節が僕たちを連れ去ったあとに』でも同じことを感じた。ラストシーン、寺山修二への弔辞を山田太一として読む広くんは、涙で言葉を詰まらせていたが、詰まる台詞は毎回違う箇所だった。その日の公演で自分が山田太一として寺山修二と過ごした時間、話したことを思い起こし、「心ゆくまで本の話を……本の話を…」と涙を流しながら言葉を絞り出す姿、声が忘れられない。



「受ける」芝居


技や芝居といえば、台詞を言ったり動いてみたり能動的に行動することが先にイメージされやすいが、私が「広くん本当に芝居上手だなぁ」と思ったポイントは、受けの芝居*1

これを私が最初に感じたのは、以外にもストレートプレイではなく、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』のボブ・ゴーディオ役。

例えば、彼らがフォー・ラヴァーズとしてボブ・クルーのバックコーラスをしているシーン。いつまで経ってもバックコーラスばかりでなかなか自分たちのレコードを出そうとしないクルーと4人が言い合いになる。ボブが書いた曲をクルーは「ただの『曲』。『ヒット曲』じゃない」と平気で切り捨てる。

その態度にボブはこみ上げる怒りを抑えて静かな声で契約破棄を提案する。しかし当時はまだ若く経験も浅い彼は、自分が言ってしまったことにまだ自信が持てない。一瞬(うっわ言っちゃったよ…まずかったかな…)と不安と後悔で瞳が曇るが、ボブの言い分にフランキー、トミー、ニックが同調する。3人が乗ってきたことに少し驚いたあと、それで自信を得たかのように曇っていた瞳にまたまっすぐな光を宿す。

このくだり、
クルーに切り捨てられる
⇒ボブ、契約破棄を提案
⇒3人が同調
⇒契約破棄
という流れにはなるが、この間にぴろボブさん、怒り、怒りの抑制、不安、驚き、自信と、かなり細かく感情がうねっていて、しかもその大抵が、他の人の言葉に反応して感情が動いている

台詞や動作があるならまだしも、ここまで細かい感情の起伏を彼は表情ひとつで明瞭に表現できてしまう。そのキャラクターが今何を考えているのかが、まるで自分のことのように観客に伝わる。広くんの受けのお芝居は、とっても緻密でこまやかなのだ。
更に、他の役と会話の会話を演じても、投げられた言葉を聞いて感じたままに返事をするから、台本上のやり取りではなく血の通った会話になる。「神は細部に宿る」と言うけれど、こうしたこまやかさに命が、『神』が宿るんだなと、広くんのお芝居を観ていると感じる。


「役を生きる」

消しゴムを観た私が抱いた「生きている」という印象は、先ほども書いたように、役のフィルターを通して役者が感じたことが役を通してまた表出するという状態である。役として広くんが感じたことを役の感情として表に出す瞬間、その役は広くん自身の感情と命を根源として血を通わせそこに存在することができるのだと思う。そんなほとばしる命のエネルギーをびしばし感じたのが、舞台『GOZEN~狂乱の剣~』の望月八弥斗の殺陣だった。広くん自身久しぶりに殺陣に挑戦した今作、私は初めて彼の殺陣を生で観ることができ、殺陣を見て涙が止まらなくなるという初体験もした。

家柄、身分違いの恋、親の仇…さまざまな「運命」を押し付けられてきた八弥斗が迷いまくりながらたどり着いた「自分で運命を切り開く」という答え。ボロボロになった八弥斗が、最後の力を振り絞って敵に斬りかかる。斬るフリではなく本気で刀と刀をぶつけ合い、押されると苦しげに顔をしかめ、相手を蹴り飛ばす。「絶対に倒す」という気概が殺気となり*2汗、怒号とともに迸る。必殺技『香流八咫烏』を決めた瞬間、汗とも涙ともわからない雫がふた粒滴ったのを憶えている。*3

毛利さんが見たい矢崎を全部乗せにした結果\矢崎ほぼ出づっぱ/になり、この殺陣のシーンでは広くん自身も体力的に相当きつかっただろう。しかし自身の限界を賭けたからこそ、その極限の姿が、命を懸けて戦う八弥斗の生き様という『真実』を見せてくれた。


近松門左衛門が説いた『虚実皮膜』という考え方がある。芸というものは実と虚との境の微妙なところにあり、事実と虚構の微妙な接点に芸術の真実があるとする論である*4
望月八弥斗は虚構の存在だが、矢崎広という感情を持った実像が彼を演じることで、彼は『真』の存在となる。

これこそが「役を生きる」ということだと、私は思うんだ。役に命を与える。神は細部に宿る。自分の命を削って役に命を与える広くんのお芝居、まさに神のなせる業なのでは…


役とのシンクロ

そして、これを執筆している時点で大絶賛上演中の『モマの火星探検記』。

「人間はどうして生まれ、何のために生きていくのか」、モマが悩みながら答えにたどり着いていく姿を、等身大で広くんが映し出している。
誰かの言葉を受け取るたびにそれがモマとしての広くんの中に蓄積されていき、だんだんと全部が繋がっていく様が見える。既製品の結末ではなく、広くんが毎公演悩んで答えを見つけてみせてくれるから、見ている側も一緒に考え、悩み、ひとつひとつの言葉を彼と一緒に重く受け取ることができたように思う。これも広くんの役としての生き様。
アフタートーク「情けない矢崎広、いいよね」「悩む矢崎広、いいよね」みたいな話も出ていたけれど、これが「悩む矢崎広」の魅力の秘密だと思ったわ今。

モマで言えばもうひとつ広くんとモマがシンクロする部分がある。大好きなお父さんを亡くしているということ。

広くんはよくお父様のお話をしてくれる。そしてその死について「トラウマみたいなものがある」とも話してくれていた。お父様が亡くなったのは私が彼を応援しはじめるより随分前なので、当時のことは知らないし、本人の心境なんて誰も知る由が無いのだけれど、2017年に初めて『モマ』を観たとき、これはしんどいと私も思った。しかし後に彼は、この作品でその「トラウマ」に関して「救われた」と話している。モマを演じることが、彼にとっての喪の作業になったのかもしれない。

2020年の再演、私は驚いた。開始2分で、広くん演じるモマが父の死を悼み、舞台上にうずくまって号泣しはじめたのだ。これは2017年版には無かったお芝居。その姿を見て、外野ながら私は「『父の死』を虚構として振り切って演じることができるようになったんだ。広くんは乗り越えたんだ」と思った。主観です。
モマが抱える悲しみも、それを胸に秘めて明るく振る舞う切なさも、より深みを増していたように思う。ただの再演ではなく、広くん自身が困難を乗り越えた先の人間としての成長を見せてもらった。

更に物語中盤、モマが火星に着いたとき、地球でモマの子供が生まれる。知らせを聞いたモマはまた泣きながらうずくまって「やったー!やった!やった!」と大喜び。2017年版では喜んでるモマがひたすらかわいいと思うだけだったが、ここが思わぬ号泣ポイントだった。膝をついて泣いて喜ぶモマの姿が、同じ姿勢で悲しみ泣いていた冒頭のシーンを思い起こさせる。モマが父から受け継いだ命のバトンが、今度は娘に渡った瞬間だった。


ある日のカテコのご挨拶より


こんなにしっかりお父様の話をしてくれるなんて思っていなくて、本編で泣ききったあとなのにここで一番泣いた。「バトンタッチされたんだ」...そんな思いで表現してくれた、おじさんからモマ、モマからユーリへの命のバトンタッチ、しっかりと届いたよ。ご両親から受け取った命を、次はきっと広くんが新しい世代にバトンタッチするんだろう。過去を未来へ繋いでいこうとする希望にあふれた、眩しいほどの素晴らしいご挨拶でした。

きっとあの挨拶を聞いた全ぴろクラが嗚咽して泣き出したはずなので、舞台からはぴろクラあぶり出し号泣地獄絵図が見えていたことだと思う。
こんなん泣くわバカー!
話してくれてありがとうー!泣


とにもかくにも『モマ』が最高なので観てほしい話

時事ネタなので勢い余ってモマの話も出しちゃって、もう今モマの話したくて仕方ない。
前項で書いた以外にもたくさんのメッセージやたしかなギフトをくれる作品。私が少年社中を、演劇を、矢崎広さんを好きな理由そのもの。でも今回の話とはずれてきちゃうし中途半端に書きたくないから、きちんとまとめられたらいつかブログ書きたいな。

『モマ』を観てこれも「繋がってる」と思い出した詩と歌をふたつだけ。

生きる 谷川俊太郎


生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみすること
あなたと手をつなぐこと


生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと


生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ


生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまが過ぎてゆくこと


生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ

写真詩集『生きる』全文



平原綾香 Jupiter 歌詞&動画視聴 - 歌ネット


(腕が)壊れるほど書いても1/3も伝わらないので、どうぞ劇場でご覧ください*5







広くんのお芝居に触れはじめたときからお芝居が好きだなとはずっと思っているけれど、いつからかそれが、私の好きな演劇像そのものになってきているように感じる。闇雲に信仰する信者やお花畑にはなりたくないけれど、だって好きなんだもの。需要と供給が一致する限りは享受し続けたいし、需要と供給にズレが生じる未来が現状では全く見えないので、これからも全幅の信頼を持って広くんの生き様を見せていただく所存。



ね!!!!!
矢崎広さんって素晴らしい役者でしょ!!!!!!!

*1:=「リアクション」なんだけど「アクション」という語感がちょっと強いのであまり使いたくない

*2:「殺気」といえば、薄ミュのバクステ映像でみんなが再三口にしていたし、そういえば私もその話したわ。

*3:なぜ涙なのかは、本編をご確認ください。
東映ムビ×ステ「GOZEN」特集 | 東映ビデオ株式会社

*4:コトバンクより https://kotobank.jp/word/%E8%99%9A%E5%AE%9F%E7%9A%AE%E8%86%9C-479648

*5:お察しの通り、ホルストさんの話がしたくて震えています。