STARMANN

いつか光を超えて、わたしを空へ連れ出して

アイドルの切り札

べスアでの衝撃の発表から一か月が経ち、年が明け、2016年――KAT-TUNデビュー10周年の年を迎えた。
この一か月と少しの間、ずっと考えてきた。わたしは何をすべきか。何を信じ、どこへ向かって、何を諦めるべきなのか。考えてきたというか、あの日のあの瞬間からわかっていた。田口くんの決意を示す、別人のような表情とまっすぐな瞳が、悲しそうな竜也の歌声が、今にも膝から崩れ落ちそうでも懸命に踊ろうとする中丸くんの姿が、溢れる感情を押し殺し小さく震えながらマイクを握るかめの手が、嫌でもそれを突きつけてきた。
4人でいる今を走り抜けようとするKAT-TUNと田口くんを信じ、3人でまた立ち上がり進んでいく未来に向かって、4人のKAT-TUNとの未来を諦める。それが残された時間でわたしがすべきこと。わかっている。

ただし「わかっている」と「できる」は別の問題で、結論から言えば、すべきことは何もできていない。今まで信じてきたものをこれからも信じ続けたいし、盛大な10周年のお祝いに向かっていきたいし、4人一緒にいてくれる未来を諦めたくない。あの日からすべきことに努めようと前に進もうとしてきたが、全く進めていない。

けれど、明星での田口くんの1万字インタビューを読み、気持ちの一部が少し整理された気がした。これなら言葉にできる。わたしなりに前に進むタメに。



このインタビューでも、田口くんは脱退の具体的な理由を明かしていない。大人の事情があって言えない部分が多いことも予想がつく。もうここまで来たら何も言わずに去るつもりだろう。発言にさまざまな規制が敷かれているであろう彼が唯一口にした脱退理由は、抽象的ではあるが、わたしが、いや、わたしだけではなくすべてのアイドルファンが恐れていた言葉だろう。



「アイドルという夢を与える職業は僕には荷が重すぎた」

田口くんほどアイドルに向いてる人はそうそういないよ!田口くんにとってアイドルは天職だよ!間違いないよ!ここまで読んでわたしはそう思った。


けれど、これに続く文で納得せざるを得なかった。



「ひとりの男として、もっと自由に生きたいと感じた」

…あぁ、とうとうそれを言われてしまった。できることなら、アイドルファンでいる限り一生聞きたくない言葉だった。
幼い頃からジャニヲタ英才教育を受け、清く正しくジャニヲタとして歩んできたこの20年近くの間、好きだった人、応援していた人が事務所を去っていったことは一度や二度ではない。芸能界を引退し一般人としての生活を手にした人もいる。けれど、不幸中の幸いというと語弊がありそうだが、この言葉を本人の口から聞くことはなかった。


「アイドルである前にひとりの人間だから」というありきたりな議論は先人たちが散々してきたし、問題をそんなに簡単に一般化できるほどわたしは田口くんとKAT-TUNを客観視できない。しかし、これこそが田口くんの脱退の理由である以上、ここに言及せざるを得ない。
アイドルは虚像だが、その虚像を演じている生身の人間には人権がある。けれど、演じているといっても提供するのは自分自身であるので、提供するモノと中の人の私生活を完全に切り離すのは難しい。個人の生活、人生を犠牲にして自己を提供してくれているのがアイドルなのだ。
そのアイドルが、ひとりの人間としての生活・人生を犠牲にすることなく求めれば、我々は止めることはできない。それはアイドルを演じる中の人の人権であり、アイドルの最後の切り札ともいえる。それを使ってしまえば一方的にゲームを終わらせることができてしまう。

そんな切り札を、田口くんはわたしたちの前に提示したのだ。アイドルという天職につき続けることと、天職についてくる足枷を取り払うこととでは、足枷から解放されることの方が幸せだと彼は判断したのかもしれない。だから彼は自らゲームを降りたいと言ってきた。

それができてしまう田口くんには、アイドルという職業はたしかに「荷が重い」のだ。反論も説得の余地もない。




ただひとつ気になるのは、同インタビューで田口くんが「パフォーマンスは続けたい」と言っていることである。
KAT-TUNとジャニーズは辞めるのに、芸能界は辞めないの?それってKAT-TUNにいながらでもできることじゃないの?切り札まで使っておいて、ゲームから完全には降りないの?それであなたは「ひとりの男」として生きられるの?
てっきり田口くんは芸能活動自体から手を引くものだと思っていたが、パフォーマンスを続けるならそういうわけでもないのかもしれない。しかしジャニーズばかり追いかけてきたわたしには、田口くんがジャニーズをやめてどんなパフォーマー活動をしようとしているのか見当がつかない。本人も未定だと言っているし、実際にパフォーマンスを続けるのかどうかは定かではないが。


でもね、田口くん、それはわがままだよ。
あなたがジャニーズやKAT-TUNで培ってきたものは、ある種ブランドとしてお金を払う価値が十分にあるものなんだよ。それを引き続き利用してどこかでパフォーマンスしようものなら、世間はあなたを放っておいてはくれないよ。元KAT-TUN田口淳之介のパフォーマンスとしてこの先も注目され、世間にさらされる。ある面では自由になれるかもしれないけど、ある面ではひょっとしたらジャニーズにいるときより規制が多いかもしれないし、好奇の目だって避けられない。
この知名度と実力を持ってパフォーマンスして「僕は『ひとりの男』だから放っておいてください」だなんて、わがままじゃない?あなたは何を想定して、何をしたくて、何に向かって「ひとりの男」になろうとしてるの?何があなたの望む「ひとりの男」なの?




今回のインタビューでは、本当に田口くんの本音が引き出されている。一度は疑いかけたけど今まで信じてきたものが嘘ではなかったという安心と、抽象的ではあるけど納得せざるを得ない理由を得られた。しかし同時に疑問も深まった。

まだ受け入れられてはいないし完全に納得もしていないけれど、新たな疑問が生まれるのは前に進んでいるあかしだと思うことにする。
春へ、あなたとの別れへ。